この記事にはアフィリエイト広告を含みます。
シリーズ第1巻冒頭の試し読みレビュー
工事現場で働く勲人のもとに届いたのは、恋人からの別れ話。汗を流しても暮らしは楽にならず、気持ちまで追い詰められていく。『モビーディック』は、そんな彼が怪しい名刺をきっかけに、VIPの暮らす新都市・田園南が丘へ足を踏み入れる物語だ。冒頭で目を引かれたのは、華やかな誘いそのものより、その誘いが魅力的に見えてしまうまでの生活の描き方だった。
騒がしい工事現場に、別れ話が割り込む
「2日前」と示された場面では、クレーンが並ぶ工事現場を大きく見せ、機械の音を表す文字を重ねている。安全ベストとヘルメット姿の勲人は、電話の声が聞き取れず、相手に言い直してもらう。その返事が別れ話なのだから、何気ない聞き返しが一気につらい会話へ変わる。
電話画面の女性は口を大きく開けて話し、勲人は汗を浮かべて固まる。声の勢いと、受け止めきれない顔の落差が分かりやすい。私は、騒音の中で仕事をしながら大事な話を聞かされる、この逃げ場のなさが効いていると感じた。主人公の不運を説明文で済ませず、会話がかみ合わなくなる瞬間に立ち会わせてくれる。
荷物を担ぐ姿とスーツ姿が、憧れの距離を見せる
電話が切れても、現場の仕事は続く。重い荷物を肩に載せ、顔をゆがめる勲人のそばに、自分の暮らしを振り返る独白が置かれる。失恋の直後でも体を動かさなければならない。その組み合わせによって、落ち込んでいるという気分だけでなく、生活を支える余裕のなさまで伝わってくる。
続いて現れるのは、整ったスーツ姿の副社長だ。作業着の勲人と同じ現場に立っているのに、服装と立ち姿だけで、二人が置かれた場所の違いが見える。勲人が相手の暮らしをうらやむ独白も加わり、「今の自分から抜け出したい」という願いに具体的な形ができる。華やかな世界へ向かう前に、汗と傷ついた自尊心を見せる。この順番があるから、勲人の憧れに自分も引き寄せられながら、物語の入口を読めた。
購入予算の考え方
読みたい作品に使う金額を先に決めておくと、一冊をゆっくり選べる。購入予算の考え方では、単話と一冊の買い方を整理している。










